読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ぼくのほそ道

サイエンスとかアートとか自然とか仏像とか生物とか・・・。僕の知り合いの人は読むの非推奨!

異国感。空気のちがう小豆島

ずっと昔から小豆島が気になっていた。僕は四国・徳島で生まれ育ったから、その気になればいつでも行ける場所だったんだけど、これといって旅行を決断するほどの理由もなく、ずいぶんと時間を重ねてしまったのだ。

そんな僕が重い腰を上げたのは、今年は瀬戸内国際芸術祭が開催されているから。瀬戸内アートの雄である直島・豊島・犬島には行ったことがある。これらの島にはベネッセの巨大資本に基づくすごい規模とクオリティのアートが展開していて度肝を抜かれるのだが、果たして小豆島はどうだろうか。チープで悲しいことになってはいないだろうか。そういうネガティブなドキドキ感とともにフェリーに乗り込んだのである。


姫路港から小豆島・福田港へのフェリーは、左手に家島諸島を見ながら進んでいく。島を形づくる石をけずりながら現金に換えている家島諸島。昨年は修士の学生のみなさんとここでフィールド研究も実施した。夕食のカレーを作る際、燃料になかなか火がつかず悲しかったのが忘れられない思い出だ。



2時間弱の船旅で小豆島に到着。瀬戸内の島々に行くときにいつも思うけど、船に乗るという非日常体験は心のアートスイッチを押すのにとても効果的なのだわ。

小豆島の第一印象は、山と森がすごい。海からいきなり山が屹立し、そしてその山は自分のすぐ足元から立ち上がっているのである。都会から眺める山にはどこか漠然としたところがあり、よく分からない遠くの別世界、というイメージなのだが、小豆島の山は誤解しようもない至近距離に、どんと立っているのだ。



といっても、小豆島の山は親しみやすい。いいかんじの森で覆われているからだ。特にこの季節、四月下旬の新緑の雰囲気はすばらしい。どんな場所のどんな植物にもそれぞれ良さはあるんだけど、新緑の小豆島は特別な気がする。緑が濃いし、立体感がすごいのだ。いうなれば、本土とは違う種類の絵の具で塗ったのかと見まごうような緑。これは小豆島をただよう空気が違うからではないのだろうか。本気で別の国に来てしまったような感覚を覚えた。たとえばハワイに来たような感覚に近い。屋久島の雰囲気にも近い。(ちなみに屋久島は、日本とはいえまったく異質の空気に支配されているのだ。)

晴天の小豆島で緑の道をドライブして最初に行き着いたのは、ヤノベケンジの「ザ・スター・アンガー」。ヤノベさんの作品は東京・墨田区の現代美術館で見たことがあり、強烈に俗っぽいのにそれを突き破る上手さが印象に残っていた。


平和な島の小さな港にこんなケバケバしく意味不明のものを置いてしまう。島のおばあちゃんはさぞや当惑するだろう。そういうミスマッチ感を極限まで突き詰めたシュールさが瀬戸内国際芸術祭の真のすばらしさであるように思う。トゲトゲのミラーボールに乗っかったドラゴンがくるくる回りながらフェリーの乗客をお出迎え、なんてヤバすぎてステキなのだ。

次に向かったのは、小豆島のなかでも特に別世界の隔絶感を持つ三都半島。中央線のないくねくね道路を15分ほどドライブすると、山と海にはさまれた狭隘な土地に少しばかりの民家と公共施設を持つ集落が現れる。ここにあるのは升谷絵里香の「Wander Island」という映像作品をインスタレーションしたやつである。廃校になった小学校の体育館をまるごと使った作品で、このあたりの海で撮影した映像作品を体育館の壁やら天井やらに投影しているのだ。



このインスタレーションというのがクセモノで、現代アートを理解できるかどうかはインスタレーションにはまれるかどうかにかかっている。この日の僕の場合、誰もいない体育館のまんなかに大の字で寝転んでひんやりとした木製フロアで体温をクールダウンしつつ抽象的な映像作品に囲まれるという体験は、もろに心に響いたのである。

小豆島のアートもなかなかやるな。作品を作った人の力量も相当だ。そして、この場所に置くからこその意味を持ち、周りの環境や鑑賞者の存在もふくめて作品として成り立つというのは、とっても興味深いし現地に見に行く価値があるのだなあ。苦労してたどり着くこと自体が作品の一部なんだし、日本を巡回してまわるフェルメールのような「うちの町の美術館に来ました、見ました」なんてものとは一線を画しているのである。ちなみに、どの町に行っても額縁の中だけで勝負できるフェルメールはすごいのだが、それはまた別の話である。

ちなみに小豆島のアートは、室内展示のものでも写真撮影が自由なものが多いのでありがたい。そういう庶民的なフレーバーが小豆島アートの魅力かもしれない。そして、三都半島のアートサイトには「島の家」という地元民によるお接待場所が併設されているのである。「ちょっと休んでいきー」と声を掛けてもらい、お茶も蒸しパンも無料でいただけるのである。これは直島・豊島・犬島のベネッセ主導アートには決して見られないものであり、島のおばちゃんが作った蒸しパンを食べることを含めてのアート体験なのである。そして、そんなおばちゃん達の自然なやさしさに思わず流れる涙は瀬戸内海の味がするのである。