ぼくのほそ道

サイエンスとかアートとか自然とか仏像とか生物とか・・・。僕の知り合いの人は読むの非推奨!

生物進化は信じられないとか、ダーウィンは根本的に間違ってるとか言う人がいるけど、そういう人はほぼすべて、「生物進化」って言葉の定義を言うことができない。専門家が説明する生物進化を、彼らはあたまのなかで別のものと思い込んで文句をつけているわけだから、いつまでたっても理解できるわけはないのである。このように、文句を言う素人さんとの話し合いには、言葉の定義という見過ごされがちな問題が実は最重要だったりするのである。

「生物進化の定義?あれでしょ、チンパンジーから人間が進化するようなことでしょ?」一般人にはこのくらいの知識しかないのが現実なのである。このstatementは二重・三重の意味で間違っている。チンパンジーから人間は生まれていない。正しい表現は、「チンパンジーと人間は共通の祖先をもっている」となるのだ。そしてその共通の祖先は、チンパンジーでも人間でもない何らかのサルっぽい生物である。

「チンパンジーと人間が共通の祖先から進化した」と表現しても、これは生物進化の定義ではない。これは、生物の分化の例であり、分化は生物進化のマイナーな一種にすぎないのである。一例を挙げることで全体を理解したような気になるのは極めて危険なのである。「定義」と「例」の区別がつかない人って、世の中には(学者も含めて)けっこういるので危険なのである。そして、「分化ではない進化」というのが存在することを絶対に忘れてはならない(あとで書く血液型の例のように)。

おまけの間違いとして、人間が進化の最終形態で、チンパンジーなどの生物はすべて、人間めざして行進してる途上みたいに思うのはまちがいだ。共通の祖先から分かれてから、チンパンジーも人間もそれぞれの置かれた環境で進化してきたわけで、どっちのほうが進化が進んでるか、という比較はできないのである。こういう比較をしようと試みる時点で、生物進化の素人さんなのである。

生物進化の正しい定義は、「ある生物集団の遺伝的特性が世代を経るにしたがって変化すること」である。実はこの定義、日本では学者すら間違っていたりするので要注意である。国際誌に査読論文を書けない学者が多いのはこういうことに起因するのかもしれない。ちなみにハーバードの院生がこの定義を間違えたりしたら、即時に退学するよう勧められるだろう。

生物進化の定義によると、たとえば、いま日本人の2割が血液型B型だとして、200年後に3割になってたなら、日本人は進化したってことになる。厳密にはgenotypeとphenotypeの違いがあるからhardy-weinberg的なequilibriumがなんちゃらかんちゃらというのがあるけれど、まあ一般人にも分かるよう彼らの誤解を明瞭に示すとこうなる。分化が起こらなくても、進化が起こることは普通にあるのだ。