ぼくのほそ道

サイエンスとかアートとか自然とか仏像とか生物とか・・・。僕の知り合いの人は読むの非推奨!

小豆島のまじめなゆるやかさ

現代アートは偶然に左右されるところがずるくておもしろいと思う。小豆島中心部の土庄の下町は「迷路の町」と呼ばれている。土庄のへんろ宿で一泊した僕は、朝おきてさっそく迷路の町を訪れてみた。町の中心にはけっこう立派なお寺があり、きれいな塔がたっている。そのまわりは曲がりくねった狭い路地。なんとなく尾道をほうふつとさせる光景である。

この迷路の町に、迷路をテーマにしたアート作品がある。その現場の前を通りかかると、受付にいたボランティアの人がわざわざ出てきてくださって、「開場は9時半なのでもう少しだけ待ってくださいね」と教えていただく。というわけで迷路の町の路地をうろつくことになる。この体験自体が、迷路のアートを楽しむための重要な前提となるのである。

さて時間となり迷路のアートへ。たばこ屋のたばこカウンターから進入するというめちゃくちゃな設定なのだ。そしてこの家、内部が迷路のようになっている。それを分かって入っても、それでもびっくりしてしまうような、他人の家に踏み込んで躊躇しちゃうような、そういうドキドキ感とドギマギ感の入り混じった作品である。そして、作品のなかで迷っている鑑賞者の自分がアートの一部となっていることがおもしろいのである。

土庄港にも現代アートがある。オリーブで編んだ輪をモチーフにした巨大な作品。小豆島だからオリーブって安直だなあ、金色って安直だなあ、と、ガイドブックで見たときは思ったのである。しかし、晴天の春の朝日に輝くオブジェは、美しいのである。円形って、単純だけどやっぱりすごいんだ。そしてオリーブの葉っぱで構成されたこの形、やっぱりきれいなんだ。

近づいてみると、オリーブの葉っぱになにやらメッセージが刻まれていることに気付く。どうやら地元の小学生のメッセージらしいぞ。海をきれいに。海よ、ありがとう。そういう感じのどストレートでベタなメッセージが満載なんだけど、それを見ていた僕は、油断してたら目から涙が出た。そういうものなんだこれは。この場所のこの日のこの時間帯に見たから僕はありえないほどナイーブで素直になっていて感動した。そんな自分を発見できるのである。

続いて山間部へ向かう。小豆島は島のくせに割とでかくて、急峻な山に囲まれた盆地や山里の環境まであるからすごいのである。そして、港から車で10分も走ればそんなところに着いてしまうのが本当にすごい。この山里にあるのは、竹で作った巨大秘密基地のようなやつだ。子供やらカップルやらが大はしゃぎする、とってもテンションの上がるサイトである。

棚田とのマッチングがなんとなく考えられているような気がする。

そしてこの集落にある、一部では有名らしいこまめ食堂へ。質素なおにぎり定食だけど、地元の食材を使ってて非常に味わい深い。最近こういう米粒ひとつひとつにありがたみを感じるような食事に感動するようになった。

帰り際、しょうゆ作りで有名な地域に立ち寄る。昔ながらの木の樽での天然醸造にこだわってる小さな醸造元の直売所を訪ねる。この会社の六代目さん自らが製品の解説をしてくれた。なんでも、日本のしょうゆの99%は近代的な醸造で作られていて、木の樽の天然醸造はわずかしかないこと。そして、しょうゆはタイプによって味が全然違うこと。それはほんとにそのとおりで、しょうゆを試飲(?)させていただいたが、ほんとに品によって味が全然違うのである。ちなみにこのとき購入しただししょうゆは私のお気に入りになり、それ以来うどんでもそうめんでもなんでもこのだししょうゆで食べるようになってしまった。

家に帰ってから小豆島のしょうゆについて調べてみたところ、もっともっと小さい醸造元がいろいろあることを知る。そういう超零細企業は自社ブランドのしょうゆを流通させることが難しいのだけど、いろんなニッチに特化してることにびっくり。お弁当についてくる魚の形をした小さいしょうゆを専門に作ってるところもあるとのこと。これからは弁当を食べる時も気を抜かないようにしなければなるまい。